川口誠敬
代表 川口誠敬の思いを
インタビュー
― グループホームを立ち上げたきっかけは何ですか?
もともとは、息子に障害があることがわかったことがきっかけです。
そこから療育に通っていました。
当時、障害のある子を育てた経験もなく、先が見えない不安の中、「少しでも我が子が育つ環境を良くしたい」という思いがあり、当時から始めていた不動産業の知人から、障害者向けのグループホームの話を聞きました。
そこで、「当事者の親だからこそできる、我が子が住みたいと思えるホーム作り」をして、少しでも我が子の力になりたいと思いました。
― なぜグループホームを選択したのでしょうか?
私は以前から不動産業を営んでいます。生活の根幹となる居住空間を提供する点で、その不動産経営におけるリフォームやリノベーションのノウハウを、グループホーム運営に活かせると考えました。障害のある方が、障害のない方と同じように自分の住みたいと思える生活空間を選択できるようにしたいと思っています。落ち着ける部屋、オシャレな部屋、かわいい部屋など、入居者に合わせて作りこんだホームを提供することができます。
またお部屋などのハード面だけでなく、当事者の親だからこそできる当事者支援も行います。そして、忘れられがちですが、当事者同様に困っている「当事者の保護者」にも寄り添ったグループホームにしなければ、自分のなかで意味がないと考えていました。そのために、市役所や相談支援事業所の方にご意見を頂きながら、まず「プレッソ鎌ヶ谷」を開設しました。
大学時代のボランティアサークルでの経験が、子育てと仕事に活きる
― 子育てで特に大変だったことを教えてください。
自分の心持ちですね。子どもの障害を知ったときは、ショックもありました。
いまも、子どもの障害を受け入れられているかというと、わかりません。
「受け入れる」ということが、どういった状態にあるのかを日々模索しています。
いまは、子どもの障害自体は自分ではどうしようもないので、親としてできることをひたすら積み上げていくしかないと思っています。
子どものためにも、障害福祉事業を中心として、いい地域やいい人間関係を作っていこうと思っていますね。
― なぜそれだけお子さんを大切にできるのですか?
もともと子どもは好きだったんです。私の幼少期に、両親の仲の良い家族でよくキャンプに行っていました。10家族以上集まるもので、年の近い子や私より小さい子もたくさん来ていました。そこで、小さい子の面倒を見ることもあり、子どもと接する楽しさを自然に感じられていたと思います。
それから、大学時代にはボランティアサークルに所属し、発達支援センターや児童養護施設で子どもたちと遊ぶボランティアに参加していました。当時は深くは考えずに、楽しそうだからと、とりあえず行っていたんです。ただ、今思うと幼少期の楽しかった記憶があったからだとも思います。
ボランティアサークルでは、ほかにも、ご高齢の方の家に行って便利屋さんのように何でもお手伝いするとか、視覚障害のある方と一緒にフロアバレーボールというスポーツをして、目が見えない状態で「右、右!」と声をかけて遊ぶとか。いま思い返すと、このときから障害福祉に関わりを持っていたんだなぁと、ちょっと運命めいたものを感じますね。
事業運営のためにも、子どもとの時間を大切に
― お子さんとの時間も大切にしながら事業をするのは難しいのではないでしょうか。
以前は難しかったんです。IT企業の会社員だった頃、療育に毎日2時間ぐらい行っていたんですよね。
早期療育は時間を投じることが圧倒的に大事だと言われているので、できるだけ多くの時間を子どものために使いたいという思いがありましたが、さすがに時間確保が難しく、育休を取得しました。
その頃に複業で始めていた不動産業が軌道に乗ったので、育休のあとは思い切って会社を辞め、仕事では、不動産事業に集中して、子育ての時間を確保できるようにしました。
最初がそうした経緯なので、いつも軸には子どもの存在があり、仕事で迷ったら、「何のためにこの事業を始めたか」に立ち返るようにしています。
事業運営のためにも、管理している人や経営する人の心持ちやマインドは非常に重要です。
落ち着いていないと、正しい判断や正しい対応ができないですし、入居者さんとの接し方において軽い気持ちで相手に刺さるようなことを言ってしまうかもしれません。そういったメンタルの状態で仕事に入ることは絶対にしたくないので、子どもや家族との時間は大切にして、ワークライフバランスを保つようにしています。
― 今後は事業をどのように展開していく予定ですか。
グループホームのほかに、将来的には児童発達支援や放課後等デイサービスも展開していきたいと考えています。
障害福祉全般に言えることですが、「情報量が少ない」「公開されていない」「公開されていてもたどり着きにくい」という実態があります。
これは、我が子の療育に関する情報や事業所を探すときに、本当に強く感じました。やっとの思いで見つけた事業所が、本当に信頼できる場所なのかもわからないまま、療育の知識がない親は事業所を頼らざるを得ません。
私は、書籍やインターネットで療育手法を調べて、応用行動分析(ABA)と作業療法にたどり着きました。そして、実践しているNPO法人や民間事業所へコンタクトを取って、療育を学び、実践してきました。知識を身につけ、療育することが大きな効果を生むことを実感しています。
「最初にこれだけ知識や経験があったら、子どもにとってどれだけ良かっただろうか」と悔やむ気持ちもあり、そんな思いを同じように子育てに困っている親御さんにしてほしくないんです。だから、相談支援事業所も開設したいと考えています。親は、まず最初に、市役所か相談支援事業所に相談をするんです。最初に相談する場所によって、その子の人生が決まってしまうかもしれません。それくらい重要な事業となるので、幅広い知識と経験が必要になると思ってます。今は、より深く障害福祉に貢献できるように、大学で知識を学びつつ、事業所や施設で学ばせてもらっています。
生活に楽しみを感じてもらえるグループホームを
― プレッソ鎌ヶ谷では、どんなことを大切にしていますか?
生活に楽しみを感じてもらうことですね。
ひとつは、食事にはこだわっています。食べることは三大欲求のひとつで生活の軸になるので、利用者さんが帰ってきておいしいご飯食べて、しっかり寝て、「行ってきます」と言ってくれる元気な姿を見送りたいですよね。
個別に好き嫌いもいろいろヒアリングして、「この栄養はこっちで補えるよね」「野菜が嫌いな方がいるから、野菜ジュースをちょっと買おう」とか。さらに毎週火曜日は「パンの日」にしたり、毎月第三日曜は「デリバリーの日(外食デイ)」にしたりして、食の楽しみを知ってもらうきっかけをどんどん入れています。季節に応じた果物狩りにも行きます。ブルーベリー狩りやイチゴ狩り、果物以外も行ってみたいと思っています。
私がグループホームの経営者であり管理者なので、自分の裁量で決められる分、利用者さんが楽しいと思えることをどんどん提供していきたいですね。いろんな特色のあるホームがたくさんできるほど、利用者さんの住む場所を選ぶ楽しみにもなると思います。子どもたちの将来にとっても、いい環境を作るきっかけになればと思っています。
― これからお子さんや障害のある方々が生きていく社会を、どのようにしていきたいですか?
社会をもっと彩られた世界にしたいです。
そのために身近な人や地域が、様々な障害を抱える方がいることを当たり前のように知っている状態にしたいです。
地域イベントを通して、ご近所さんや幼稚園、学校関係者、町内会や市役所の人などにまず当事者を知ってもらい、そこから親のように当事者たちを温かく見守ってくれるような関係性が築けたら、安心して暮らせる人が増えていくと思っています。
「コミュニティペアレント」と名づけているのですが、そういった地域を増やしていくために自分の半径5メートルくらいの人を幸せにするというポリシーで私は活動しています。
物理的な距離や心理的な距離での半径5メートルですね。身近な人を幸せにしていき、そこを中心に幸せを広げていくことが出来れば、街が良くなり、地域が良くなると思っています。
誰かに対して、温かく見守る気持ちを持てることに、自身の幸せは大きく関わっていると考えており、身近な1人ひとりを幸せにすることが、理想に近づくための第一歩だと考えています。